高校物理の問題解説: 力学的エネルギー保存の法則④

問題:力学的エネルギー保存④

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図1に示すように、地上から高さ\(1.8\,\text{m}\)の位置にある 質量\(1.0\,\text{kg}\)の物体を静かに離した。 物体はなめらかな斜面に沿って運動し、地上から高さ\(0.9\,\text{m}\)の位置で 水平方向と角度\(30^\circ\)をなす向きに投射され、最高点を通過した。 重力加速度の大きさを\(9.8\,\text{m/s}^2\)として以下の問いに答えよ。
問1 投射された瞬間の速さ\(v\)を求めよ。
問2 最高点の高さ\(h_0\)を求めよ。


   

〔解き方〕

   

 〔公式〕

 ◆力学的エネルギー 

・状態①での力学的エネルギー
  \(E_1 = K_1 + U_{g1} + U_{k1} \cdots (1)\)
・状態②での力学的エネルギー
  \(E_2 = K_2 + U_{g2} + U_{k2} \cdots (2)\)
・状態③での力学的エネルギー
  \(E_3 = K_3 + U_{g3} + U_{k3} \cdots (3)\)

今回の問題では、上式のような力学的エネルギーから保存則を立てて問題を解きます。 以下のステップに従って立式しましょう。

ステップ1:各状態の力学的エネルギーを表現する

まず、力学的エネルギー\(E\)とは運動エネルギー\(K\)と位置エネルギー\(U\)の和です。
  \(E = K + U\)
このうち、位置エネルギー\(U\)は重力による位置エネルギー\(U_g\)と弾性力による 位置エネルギー\(U_k\)に分かれるので、上式は次の様になります。
  \(E = K + U_g + U_k\)
更に、各エネルギーの公式を活用すると下記の様になります。
  \(E = \frac{1}{2}m v^2 + mgh + \frac{1}{2}k x^2\)
この式に含まれる、速さ\(v\)や高さ\(h\)などを一つ一つ定めます。 このうち高さ\(h\)は、図2のように地上を基準\(0\,\text{m}\)として①~③の高さを 表現しましょう。 ここで、図2に示す状態①であれば、速度\(0\,\text{m/s}\), 高さ\(1.8\,\text{m}\), ばねは今回の運動に関わらないので弾性力による位置エネルギーは\(0\,\text{J}\)として、 条件代入後の式(1)が得られます。 同様に状態②や③について考えれば式(2), (3)が得られます。 ただし、ここで状態③は注意が必要です。 “最高点” なので鉛直方向の速さは\(0\)となりますが、 水平方向の速さは状態②の水平方向の速さ\(vcos30^\circ\)と等しくなることに気を付けましょう。

ステップ2:前の状態と後の状態を決める

保存則の基本的な式の構造は以下の通りです
  \((前の状態) = (後の状態)\)
例えば問1で状態②の速さ\(v\)を求める場合は、 既知の状態①を”前”として、状態②を”後”として解くべきだと判断します。
このように、”前” と “後” の状態を①~③のいずれとするかを設問ごとに考えます。

ステップ3:仕事を計算する

ステップ2で “前” と “後” を決めたら、その間の仕事を計算します。 詳しくは各設問の解答・解説を参照して下さい。

ステップ4:立式する

ここまでのステップを踏まえて
  \((前の状態) + (仕事) = (後の状態)\)
という形で立式します。
あとは、この式を数学的に解けばokです。

注意点

今回は解説の為に上記のようなステップで解きますが、 こうした問題に慣れてきたらステップ2から始めてステップ4まで行い、 ステップ4で立式する最中に各状態の力学的エネルギーを具体的に 表わすという手順で解けるようになってください。

運動エネルギーの詳細はコチラ!(Map)
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重力による位置エネルギーの詳細はコチラ!(Map)
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弾性力による位置エネルギーの詳細はコチラ!(Map)
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力学的エネルギー保存の詳細はコチラ!(Map)
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〔解答と解説〕

問1

 答え:\(v = 4.2 \,\text{m/s}\)

[解き方]の条件代入後の式(1) ~ (3)を立式した上で必要なものを使って解きましょう。
今回は①を”前の状態”、②を”後の状態”として解きます。また、①→②にかけては 図3の枠内に示すように重力と垂直抗力が働きます。これらの力のする仕事を計算すべきですが、 重力のする仕事は位置エネルギー\(U_g\)として計上しているので不要です。 また垂直抗力は移動方向と常に直交するので仕事は\(0\)となります。 これらを踏まえると、
\( \begin{align*} \text{(前の状態)} + \text{(仕事)} &= \text{(後の状態)} \\ E_1 + 0 &= E_2\\ \end{align*} \)
よって、
\( \begin{align*} 1.0\cdot 9.8\cdot 1.8 &= \frac{1}{2}\cdot 1.0 \cdot v^2 + 1.0\cdot 9.8\cdot 0.9 \\ \frac{1}{2}\cdot v^2 &= 9.8\cdot 1.8 – 9.8\cdot 0.9 \\ v^2 &= 2(9.8\cdot 1.8 – 9.8\cdot 0.9) \\ v^2 &= 2\cdot 9.8\cdot 0.9 \\ \end{align*} \)
\(v > 0\)より、
\( \begin{align*} v &= \sqrt{2\cdot 9.8\cdot 0.9} \\ &= \sqrt{\frac{2^2\times 3^2\times 7^2}{10^2}} \\ &= \frac{2\times 3\times 7}{10} \\ &= 4.2\\ \end{align*} \)


問2

 答え:\(h = 1.1\,\text{m}\)

[解き方]の条件代入後の式(1) ~ (3)を立式した上で必要なものを使って解きましょう。
今回は①を”前の状態”、③を”後の状態”として解きます。また①→③での仕事を、 ①→②と②→③に分けて考えましょう。①→②部分では問1で説明したように仕事は\(0\)となります。 ②→③部分においても、図4の枠内に示すように重力のみが働き、 重力のする仕事は位置エネルギー\(U_g\)として計上しているので不要です。 これらを踏まえると、
\( \begin{align*} \text{(前の状態)} + \text{(仕事)} &= \text{(後の状態)} \\ E_1 + 0 &= E_3\\ \end{align*} \)
よって、
\( \begin{align*} 1.0\cdot 9.8\cdot 1.8 &= \frac{1}{2}\cdot 1.0 \cdot (vcos30^\circ)^2 + 1.0\cdot 9.8\cdot h \\ 9.8\cdot 1.8 &= \frac{1}{2} \cdot (4.2\frac{\sqrt{3}}{2})^2 + 9.8\cdot h \\ 2\cdot 9.8\cdot 1.8 &= (2.1\sqrt{3})^2 + 2\cdot 9.8\cdot h \\ 2\cdot 9.8\cdot 1.8 &= 2.1^2\cdot3 + 2\cdot 9.8\cdot h \\ h &= \frac{2\cdot 9.8\cdot 1.8 – 2.1^2\cdot3}{2\cdot 9.8} \\ &\approx \frac{22.1}{19.6} \\ &\approx 1.12\\ &\approx 1.1\\ \end{align*} \)