問題:力学的エネルギー保存③
図1に示すように、糸の先に質量\(1.0\,\text{kg}\)の物体を取り付け、
鉛直方向と角度\(90^\circ\)となる位置まで物体を引き上げて静かに放した。
物体は最下点に達し、その直上にある釘に引っかかって角度\(60^\circ\)
となる位置\(P\)を通過した。
重力加速度の大きさを\(9.8\,\text{m/s}^2\)として以下の問いに答えよ。
問1 最下点に達したときの速さ\(v\)を求めよ。
問2 位置\(P\)に達したときの速さ\(v’\)を求めよ。
〔解き方〕
〔公式〕
◆力学的エネルギー
・状態①での力学的エネルギー
\(E_1 = K_1 + U_{g1} + U_{k1} \cdots (1)\)
・状態②での力学的エネルギー
\(E_2 = K_2 + U_{g2} + U_{k2} \cdots (2)\)
・状態③での力学的エネルギー
\(E_3 = K_3 + U_{g3} + U_{k3} \cdots (3)\)
今回の問題では、上式のような力学的エネルギーから保存則を立てて問題を解きます。 以下のステップに従って立式しましょう。
ステップ1:各状態の力学的エネルギーを表現する
まず、力学的エネルギー\(E\)とは運動エネルギー\(K\)と位置エネルギー\(U\)の和です。
\(E = K + U\)
このうち、位置エネルギー\(U\)は重力による位置エネルギー\(U_g\)と弾性力による
位置エネルギー\(U_k\)に分かれるので、上式は次の様になります。
\(E = K + U_g + U_k\)
更に、各エネルギーの公式を活用すると下記の様になります。
\(E = \frac{1}{2}m v^2 + mgh + \frac{1}{2}k x^2\)
この式に含まれる、速さ\(v\)や高さ\(h\)などを一つ一つ定めます。
このうち高さ\(h\)は、図2のように状態②の高さを基準\(0\,\text{m}\)として①~③の高さを
表現しましょう。
ここで、図2に示す状態①であれば、速度\(0\,\text{m/s}\), 高さ\(0.8\,\text{m}\),
ばねは今回の運動に関わらないので弾性力による位置エネルギーは\(0\,\text{J}\)として、
条件代入後の式(1)が得られます。
同様に状態②や③について考えれば式(2), (3)が得られます。
ステップ2:前の状態と後の状態を決める
保存則の基本的な式の構造は以下の通りです
\((前の状態) = (後の状態)\)
例えば問1で状態②の速さ\(v\)を求める場合は、
既知の状態①を”前”として、状態②を”後”として解くべきだと判断します。
このように、”前” と “後” の状態を①~③のいずれとするかを設問ごとに考えます。
ステップ3:仕事を計算する
ステップ2で “前” と “後” を決めたら、その間の仕事を計算します。 詳しくは各設問の解答・解説を参照して下さい。
ステップ4:立式する
ここまでのステップを踏まえて
\((前の状態) + (仕事) = (後の状態)\)
という形で立式します。
あとは、この式を数学的に解けばokです。
注意点
今回は解説の為に上記のようなステップで解きますが、 こうした問題に慣れてきたらステップ2から始めてステップ4まで行い、 ステップ4で立式する最中に各状態の力学的エネルギーを具体的に 表わすという手順で解けるようになってください。
運動エネルギーの詳細はコチラ!(Map)重力による位置エネルギーの詳細はコチラ!(Map)
弾性力による位置エネルギーの詳細はコチラ!(Map)
力学的エネルギー保存の詳細はコチラ!(Map)
〔解答と解説〕
問1
答え:\(v = 3.9 \,\text{m/s}\)
[解き方]の条件代入後の式(1) ~ (3)を立式した上で必要なものを使って解きましょう。
今回は①を”前の状態”、②を”後の状態”として解きます。また、①→②にかけては
図3の枠内に示すように重力と張力が働きます。これらの力のする仕事を計算すべきですが、
重力のする仕事は位置エネルギー\(U_g\)として計上しているので不要です。
また張力は移動方向と常に直交するので仕事は\(0\)となります。
これらを踏まえると、
\(
\begin{align*}
\text{(前の状態)} + \text{(仕事)} &= \text{(後の状態)} \\
E_1 + 0 &= E_2\\
\end{align*}
\)
よって、
\(
\begin{align*}
1.0\cdot 9.8\cdot 0.8 &= \frac{1}{2}\cdot 1.0 \cdot v^2 \\
v^2 &= 2\cdot 9.8\cdot 0.8 \\
\end{align*}
\)
\(v > 0\)より、
\(
\begin{align*}
v &= \sqrt{2\cdot 9.8\cdot 0.8} \\
&= \sqrt{\frac{2^5\times 7^2}{10^2}} \\
&= \frac{2^2\times 7}{10}\sqrt{2} \\
&\approx3.94\\
&\approx3.9\\
\end{align*}
\)
問2
答え:\(v’ = 3.4 \,\text{m/s}\)
[解き方]の条件代入後の式(1) ~ (3)を立式した上で必要なものを使って解きましょう。
今回は①を”前の状態”、③を”後の状態”として解きます。また、①→③にかけては
図4の枠内に示すように重力と張力が働きます。これによる仕事を計算すべきですが、
問1で解説したようにこれらの仕事は\(0\)となります。
これらを踏まえると、
\(
\begin{align*}
\text{(前の状態)} + \text{(仕事)} &= \text{(後の状態)} \\
E_1 + 0 &= E_3\\
\end{align*}
\)
よって
\(
\begin{align*}
1.0\cdot 9.8\cdot 0.8 &= \frac{1}{2}\cdot 1.0 \cdot v’^2 + 1.0\cdot 9.8\cdot 0.2 \\
v’^2 &= 2(1.0\cdot 9.8\cdot 0.8 – 1.0\cdot 9.8\cdot 0.2) \\
v’^2 &= 2\cdot 9.8\cdot 0.6 \\
\end{align*}
\)
\(v’ > 0\)より、
\(
\begin{align*}
v’ &= \sqrt{2.0\cdot 9.8\cdot 0.6} \\
&= \sqrt{\frac{2^3\times 3\times 7^2}{10^2}} \\
&= \frac{2\times 7}{10}\sqrt{6} \\
&\approx3.41\\
&\approx3.4\\
\end{align*}
\)