問題:重ねた2物体の運動②
図1に示すように質量\(m\)の物体Aを質量\(M\)の物体Bの上に乗せ、
物体Bを水平右向きに力\(F\)で引いた。
物体A, Bは一体となって運動したが、引く力\(F\)を徐々に
大きくしたところ、\(F_0\)を超えたときに物体Aは物体B上で滑りだした。
物体A, 物体B 間は静止摩擦係数\(\mu\)、動摩擦係数\(\mu’\)の粗い面であり、
物体Bと床面の間はなめらかで摩擦力は働かない。
重力加速度の大きさを\(g\)として以下の問いに答えよ。
問1 物体A, Bが一体となって運動するときの加速度を求めよ。
問2 物体Aが物体B上で滑りだすときの力\(F_0\)を求めよ。
問3 \(F > F_0\)における物体Bの加速度の大きさを求めよ。
〔解き方〕
〔公式〕
◆運動方程式
・物体Aの\(x\)軸方向について
\(m \cdot a_x=F_x \cdots (1)\)
・物体Aの\(y\)軸方向について
\(m \cdot a_y=F_y \cdots (2)\)
・物体Bの\(x\)軸方向について
\(m \cdot a_x=F_x \cdots (3)\)
・物体Bの\(y\)軸方向について
\(m \cdot a_y=F_y \cdots (4)\)
今回の問題では、上式のような運動方程式を立てて問題を解きます。以下のステップに従って立式しましょう。
ステップ1:力の図示
物体Aに働く力を図2に、物体Bに働く力を図3に示します。
これらの力を漏れなく列挙するには、
①遠隔力…離れていても働く力
②接触力…接しているときに働く力
に分けて図示するとよいでしょう。これまでに学習した遠隔力は重力だけなので、
物体A, Bそれぞれに対して重力を素直に図示します。
次に接触力ですが、これまでに学習した接触力には張力や弾性力など様々あります。
こうした接触力は、対象物体が他の何かと接していたら働くと考えます。
今回、物体Aは物体Bと接しているので、垂直抗力と摩擦力が働くと考えます。
物体Bは物体Aや床面と接しているので、物体Aとの間に垂直抗力と摩擦力が、床との間に垂直抗力が働くと考えます。
ここで注意してほしいのは、物体Bが物体Aから受ける垂直抗力と摩擦力は、物体Aが受ける力の反作用として働いているので、
同じ文字\(N_1\), \(f\)で表わしましょう。
ステップ2:軸を定める
運動方程式\(ma=F\)には、”加速度” や ”力” が含まれますが、これはベクトル量なので大きさと向きをもちます。 そのため軸を定めて、軸と同方向なら正、軸と逆方向なら負として向きを取り扱う必要があります。 今回は図4のように水平方向に\(x\)軸、鉛直方向に\(y\)軸を定めます。
ステップ3:立式する
≪物体Aについて≫
\(x\)軸方向には、図5に示すような力で水平右向きに加速度\(a_A\)で運動しているとして式(1)が立式できます。
\(y\)軸方向には、図6に示すような力で静止しているので、加速度\(0\)となり式(2)が立式できます。
≪物体Bについて≫
\(x\)軸方向には、図7に示すような力で水平右向きに加速度\(a_B\)で運動しているとして式(3)が立式できます。
\(y\)軸方向には、図8に示すような力で静止しているので、加速度\(0\)となり式(4)が立式できます。
ここで、気づいた方もいるかもしれませんが、問1などでは物体A, Bが一体となっている場合を扱っているので、
各物体の加速度をまとめて\(a\)とおけば良いのでは?と思うかもしれません。しかし、問3では物体Aは物体Bとは
異なる加速度をもちます。そこで、この段階では一旦異なる加速度\(a_A\), \(a_B\)で表わし、問1の場合には
\(a_A = a_B\)といった式を追加して、”一体となる”という意味を付与する形で解きます。
ステップ4:連立して解く
条件代入後の式(1)~(4)を用いて未知数を求めます。ここは、数学的に考えて解けばokです。
〔解答と解説〕
問1
答え:\(\frac{F}{m + M}\)
[解き方]の条件代入後の式(1)~(4)の中から必要なものを使って解きましょう。
問1では物体A, Bは一体となって運動しているので \(a_A = a_B = a\)として、
式(1)と式(3)の辺々を足すと
\(
\begin{align*}
m \cdot a + M \cdot a &= f + F – f\\
( m + M )\cdot a &= F \\
a &= \frac{F}{m + M} \\
\end{align*}
\)
問2
答え:\(\mu (M + m)g\)
[解き方]の条件代入後の式(1)~(4)の中から必要なものを使って解きましょう。
問2では「滑りだす」とあるので、最大静止摩擦力\(f = \mu N_1\)が働いて
物体A, Bは一体となって運動している( \(a_A = a_B = a\))
と扱えます。
そこで、まず式(2)から
\(
\begin{align*}
m \cdot 0 &= – mg + N_1 \\
N_1 &= mg \\
\end{align*}
\)
を得て、最大静止摩擦力は
\(
\begin{align*}
f &= \mu N_1 \\
&= \mu mg \\
\end{align*}
\)
これと\(a_A = a_B = a\)を式(1)および式(3)に代入すると、
\(m \cdot a = \mu mg \cdots (1′) \)
\(M \cdot a = F_0 – \mu mg \cdots (3′) \)
が成り立ちます。これらから\(a\)を消去すると
\(
\begin{align*}
M \cdot \mu g &= F_0 – \mu mg \\
F_0 &= M \mu g + \mu mg \\
F_0 &= \mu (M + m)g \\
\end{align*}
\)
問3
答え:\(\frac{F – \mu’ mg}{M}\)
[解き方]の条件代入後の式(1)~(4)の中から必要なものを使って解きましょう。
問3の状況では動摩擦力\(f = \mu’ N_1\)が働いており、
物体A, Bはそれぞれ異なる加速度\(a_A\), \(a_B\)で運動しています。
そこで、まず式(2)から
\(
\begin{align*}
m \cdot 0 &= – mg + N_1 \\
N_1 &= mg \\
\end{align*}
\)
よって、動摩擦力は
\(
\begin{align*}
f &= \mu’ N_1 \\
&= \mu’ mg \\
\end{align*}
\)
これを式(3)に代入して、
\(
\begin{align*}
M \cdot a_B &= F – f \\
M \cdot a_B &= F – \mu’ mg \\
a_B &= \frac{F – \mu’ mg}{M} \\
\end{align*}
\)