高校物理の問題解説: 粗い斜面上での運動

問題:粗い斜面上での運動

固定画像 タイマー付き画像

図1に示すように粗い斜面上に質量\(m\)の物体を置く。 はじめ物体は静止していたが傾斜角\(\theta\)を大きくしていくと、 \(\theta_0\)を超えたときに斜面下向きに滑りだした。 静止摩擦係数を\(\mu\)、動摩擦係数を\(\mu’\)、 重力加速度の大きさを\(g\)として以下の問いに答えよ。
問1 物体が静止しているときに働く摩擦力の大きさを求めよ。
問2 滑りだす瞬間の傾斜角の\(tan\theta_0\)を求めよ。
問3 物体が斜面下向きに運動するときの加速度の大きさを求めよ。


   

〔解き方〕

   

 〔公式〕

 ◆運動方程式 

・\(x\)軸方向について
  \(m \cdot a_x=F_x \cdots (1)\)
・\(y\)軸方向について
  \(m \cdot a_y=F_y \cdots (2)\)

今回の問題では、上式のような運動方程式を立てて問題を解きます。以下のステップに従って立式しましょう。

ステップ1:力の図示

物体に働く力を図2に示します。 これらの力を漏れなく列挙するには、
 ①遠隔力…離れていても働く力
 ②接触力…接しているときに働く力
に分けて図示するとよいでしょう。これまでに学習した遠隔力は重力だけなので、 これを素直に図示します。
次に接触力ですが、これまでに学習した接触力には張力や弾性力など様々あります。 こうした接触力は、対象物体が他の何かと接していたら働くと考えます。 物体は粗い斜面と接しているので、垂直抗力と摩擦力が働くと考えます。
なお、この段階での摩擦力の表現には注意しましょう。 摩擦力を無条件に\(\mu N\)と表わしてしまう学生が多いですが、 \(\mu N\)とは最大静止摩擦力のことであり、そうなるかは設問によって異なります。 ここでは一旦\(f\)と表現しておき、設問に応じて\(f\)に対する条件式を 追加して解いていきます。

ステップ2:軸を定める

運動方程式\(ma=F\)には、”加速度” や ”力” が含まれますが、これはベクトル量なので大きさと向きをもちます。 そのため軸を定めて、軸と同方向なら正、軸と逆方向なら負として向きを取り扱う必要があります。 今回は、問3で斜面に沿った方向に運動するので、これを踏まえて図3のように\(x\)軸, \(y\)軸を定めます。

ステップ3:立式する

運動方程式\(ma=F\)において、質量\(m\)は問題文で与えられている場合が多いです。 一方、加速度\(a\)や力\(F\)は問題文や図から判断する必要があり、これらはベクトルなので方向ごとに考えないといけません。
\(x\)軸方向には問3で運動すると書かれているので加速度は\(a\)とし、力\(F\)は図4に示す力が対象となり式(1)が得られます。
\(y\)軸方向には静止しているので加速度は\(0\)とし、力\(F\)は図5に示す力が対象となり式(2)が得られます。

ステップ4:連立して解く

条件代入後の式(1), (2)を用いて未知数を求めます。ここは、数学的に考えて解けばokです。
例えば、式(2)から\(N\)求められると分かります。 式(1)には\(a\)と\(f\)が含まれており、式ひとつに対して未知数ふたつなので一般には解けず、 設問に応じて条件式を追加して解く必要があります。 これ以降の計算結果は[解答と解説]を参照してください。

運動方程式の詳細はコチラ!(Map)
×


〔解答と解説〕

問1

 答え:\(mgsin\theta\)

[解き方]の条件代入後の式(1)を用いて解きましょう。
問題文に「静止している」とあるので、式(1)に対して\(a = 0\)を代入し、
\( \begin{align*} m \cdot a &= mgsin\theta – f\\ m \cdot 0 &= mgsin\theta – f\\ f &= mgsin\theta\\ \end{align*} \)


問2

 答え:\(tan\theta_0 = \mu\)

[解き方]の条件代入後の式(1), (2)を用いて解きましょう。
問題文に「滑りだす瞬間」とあり、これは最大静止摩擦力が働いてギリギリ静止している状態と扱います。 よって、\(f = \mu N\), \(a = 0\)が成り立ち、これを式(1)に代入して
\( \begin{align*} m \cdot 0 &= mgsin\theta_0 – \mu N \cdots(1′)\\ \end{align*} \)
式(1′)に含まれる未知数\(N\)を消去したいので式(2)から
\( \begin{align*} m \cdot 0 &= N – mgcos\theta_0\\ N &= mgcos\theta_0\\ \end{align*} \)
を得てこれを式(1′)に代入します。
\( \begin{align*} 0 &= mgsin\theta_0 – \mu mgcos\theta_0\\ mgsin\theta_0 &= \mu mgcos\theta_0\\ tan\theta_0 &= \mu \\ \end{align*} \)


問3

 答え:\((sin\theta – \mu’ cos\theta) g\)

[解き方]の条件代入後の式(1), (2)を用いて解きましょう。
物体は運動しているので摩擦力\(f\)は動摩擦力として扱え、 \(f = \mu’ N\)が成り立ちます。この条件と、式(2)を解いて得られる
\( N = mgcos\theta\)
を式(1)に代入し、
\( \begin{align*} m \cdot a &= mgsin\theta – f \\ m \cdot a &= mgsin\theta – \mu’ N \\ m \cdot a &= mgsin\theta – \mu’ mgcos\theta \\ a &= gsin\theta – \mu’ gcos\theta \\ a &= (sin\theta – \mu’ cos\theta) g \\ \end{align*} \)