高校物理の解説:変位と速度



第1講 変位と速度

ここでは物理基礎の初めに登場する基本的な用語について学びます。 「速度」や「速さ」といった日常会話で意味の違いに着目しない言葉でも、物理学の中ではその違いが重要になります。 正確に意味を理解しましょう。

 図の切替 

固定画像 タイマー付き画像

1.変位と移動距離

1-1.位置\(x\)
力学では物体の運動を表すことが大きな目的となります。 基本的には図1のように座標軸を定めて位置\(x\)を表現します。

座標軸を定めるということは、原点と正の方向を定めるということです。 これらの定め方は任意ですが、問題を解きやすくする為には以下のように決めると良いでしょう。
 原点:物体が運動を開始する位置に合わせる
 正の方向:物体が初めに動く方向に合わせる
また、図1のように一直線上を運動するのであれば軸は1つで十分ですが、図2のように平面上を運動する場合は軸を2つ定める必要があることにも注意してください。

1-2.変位\(\Delta x\)
変位\(\Delta x\)とは位置\(x\)の変化量のことであり、初めの位置\(x_1\)と終わりの位置\(x_2\)の間の直線距離を指します。 \[\Delta x = x_2 – x_1\] 変位は大きさと向きをもつベクトル量のひとつであることも覚えておきましょう。

例えば図3の経路①ようにA地点を出発してB地点を経由しC地点に到着した場合、変位はB地点を経由したことを考慮せず\(\Delta x\)となります。 これは、“位置の変化”とある通り、初めと終わりの位置がどれだけ変化したか?を考える上で経路は関係ない為です。 尚、ここで“\(\Delta\)”はデルタと読み、変化量であることを意味(強調)する際に文字式の先頭に記されるものです。 また物理学では、位置だけでなく時間・力・温度といった様々な物理量に対して「変化量」を考えることがあります。 一般に変化量を求めるには \[(変化量) = (後) – (前)\] という形で求められることを覚えておきましょう。変位であれば、 \[(変位) = (後の位置) – (前の位置)\] と計算すると言うことですね。この式を文字で表したものが式(〇)ということです。 当然、後の位置\(x_2\)や前の位置\(x_1\)は、1-1で説明した座標軸を使って求めていくことになります。 また、変位という用語には向きの情報も含まれます。つまり、地点Aから地点Cの向きという情報も変位の情報の一つなのです…が、これは例題を通して学んだ方が分かりやすいと思うので、例題1を通して理解しましょう。

【例題1】
図4において、物体が座標軸上の地点Aから地点Bまで移動した場合の変位を求めてみましょう。

\[\Delta x = x_2 – x_1 = 8.0 – 2.0 = 6.0\,\text{m}\] と計算でき、変位は「\(x\)軸正の方向に6.0m」となります。ここで、変位は向きの情報も持つので、このように向きについても明記しましょう。 ここで計算結果の6.0mの前には“+”があり、それは省略されていますが、“+”という符号から\(x\)軸正の方向に変位したと判断してます。 よって、仮にこの問題が「地点Bから地点Aに移動した場合」であれば、前の位置=地点B, 後の位置=地点Aとなるので \[\Delta x = x_2 – x_1 = 2.0 – 8.0 = – 6.0\,\text{m}\] となり、“ ー ”という符号から方向を判断して、変位は「\(x\)軸負の方向に6.0m」と答えます。

■1-3.移動距離\(|\Delta x|\)
移動距離とは移動した経路全体の長さのことです。 変位と違って初めの位置\(x_1\)と終わりの位置\(x_2\)だけで決まらず、移動の経路も移動距離に影響します。 また、移動距離は大きさのみをもつスカラー量のひとつであることも変位と異なります。

例えば図3の経路①ようにA地点を出発してB地点を経由しC地点に到着した場合、移動距離は経路全体の長さなので、B地点を経由したことを考慮して\(\Delta x_a + \Delta x_b\)になります。 また、移動距離という用語には向きの情報は含まれません。よって、変位のように向きを考慮しながら扱う必要のないものになります。

【例題2】
図4において、物体が座標軸上の地点Aから地点Bまで移動した場合の移動距離を求めてみましょう。

\[\Delta x = x_2 – x_1 = 8.0 – 2.0 = 6.0\,\text{m}\] と計算でき、移動距離は「6.0m」となります。ここで、移動距離は向きの情報も持たないので、このように向きについては明記しません。 仮にこの問題が「地点Bから地点Aに移動した場合」であれば、前の位置=地点B, 後の位置=地点Aとなるので \[\Delta x = x_2 – x_1 = 2.0 – 8.0 = – 6.0\,\text{m}\] となりますが、“ ー ”の符号を取り去って、やはり移動距離は「6.0m」となります。

2.速度と速さ

2-1.速度\(v\)
速度とは「単位時間あたりの変位」であり、ある時間の間での変位\(\Delta x\)を経過時間\(\Delta t\)で割って計算します(図5)。 \[v=\frac{\Delta x}{\Delta t}\] 速度\(v\)は変位\(\Delta x\)と同じく大きさと向きをもつベクトル量の一種です。

単位時間とは、1秒、1分、1時間のように、基準とする時間のことで、状況や用途によってどれにするかは変わります。

2-2.速さ\(|v|\)
速さとは、「速度の大きさ」であり、“大きさ”に着目する点から分かるようにスカラー量のひとつです。

公式は速度の公式と同様です。 日常では、「速度」も「速さ」も同じ意味で使うでしょうが、物理学ではこれらをベクトル量かスカラー量かという点でハッキリと区別します。 変位と移動距離も同じようにベクトル量かスカラー量かという違いがあり、これが例題1,2で紹介したような回答の仕方の違いに影響しました。 速度と速さについても同様の違いがあるので気を付けましょう。

【例題3】
図6において、物体が座標軸上で地点Aから地点Bまで移動するのに3.0秒かかったとして、その速度と速さを求めてみましょう。

\[v = \frac{\Delta x}{\Delta t} = \frac{8.0 – 2.0}{3.0 – 0} = 2.0\,\text{m/s}\] と計算でき、 速度は「\(x\)軸正の方向に\(2.0\,\text{m/s}\)」 速さは「\(2.0\,\text{m/s}\)」 となります。 速度はベクトル量なので向きを明記し、速さはスカラー量なので向きを明記しません。 ここで計算結果の\(2.0\,\text{m/s}\)の前に省略されている“+”という符号から\(x\)軸正の方向と判断してます。 仮にこの問題が「地点Bから地点Aに移動した場合」であれば、前の位置=地点B, 後の位置=地点Aとなるので \[v = \frac{\Delta x}{\Delta t} = \frac{2.0 – 8.0}{3.0 – 0} = – 2.0\,\text{m/s}\] となり、“ ー ”の符号から、速度は速度は「\(x\)軸正の方向に\(- 2.0\,\text{m/s}\)」と答えます。 (速さは変わりません)

3.ベクトル量とスカラー量

基本的に、これから学ぶ物理量は全てスカラー量かベクトル量のいずれかに分類されます。
■3-1.ベクトル量
変位や速度のように大きさと向きの概念をもつものをベクトル量と呼びます。 ベクトル量の例には速度や力などがあります。
■3-2.スカラー量
移動距離のように大きさだけで向きの概念をもたないものをスカラー量と呼びます。 スカラー量の例には温度や質量などがあります。
用語によって向きの情報を持つかどうかが異なり、それによって回答の仕方などの問題を解くあらゆる側面で違いが生じます。 「今扱っている物理量はスカラー量か?ベクトル量か?」を考えることは非常に重要になるので覚えておきましょう。