問題:力学的エネルギー保存①
図1に示すように、水平面から高さ\(h\)の位置から質量\(m\)の物体を静かに離したところ、
物体は水平面に達して速さ\(v\)となった。
その後、動摩擦係数\(\mu’\) 長さ\(L\)の粗い面を通過して速さ\(v’\)となり、
ばね定数\(k\)の軽いばねを押し縮めた。重力加速度の大きさを\(g\)として以下の問いに答えよ。
問1 水平面に達したときの速さ\(v\)を求めよ。
問2 粗い面を通過した後の速さ\(v’\)を求めよ。
問3 ばねの縮み\(x\)の最大値を求めよ。
〔解き方〕
〔公式〕
◆力学的エネルギー
・状態①での力学的エネルギー
\(E_1 = K_1 + U_{g1} + U_{k1} \cdots (1)\)
・状態②での力学的エネルギー
\(E_2 = K_2 + U_{g2} + U_{k2} \cdots (2)\)
・状態③での力学的エネルギー
\(E_3 = K_3 + U_{g3} + U_{k3} \cdots (3)\)
・状態④での力学的エネルギー
\(E_4 = K_4 + U_{g4} + U_{k4} \cdots (4)\)
今回の問題では、上式のような力学的エネルギーから保存則を立てて問題を解きます。 以下のステップに従って立式しましょう。
ステップ1:各状態の力学的エネルギーを表現する
まず、力学的エネルギー\(E\)とは運動エネルギー\(K\)と位置エネルギー\(U\)の和です。
\(E = K + U\)
このうち、位置エネルギー\(U\)は重力による位置エネルギー\(U_g\)と弾性力による
位置エネルギー\(U_k\)に分かれるので、上式は次の様になります。
\(E = K + U_g + U_k\)
更に、各エネルギーの公式を活用すると下記の様になります。
\(E = \frac{1}{2}m v^2 + mgh + \frac{1}{2}k x^2\)
この式に含まれる、速さ\(v\)や高さ\(h\)などを一つ一つ定めます。
例えば、図2に示す状態①であれば、速度\(0\), 高さ\(h\), ばねの伸び\(0\)
であるので条件代入後の式(1)のようになります。
同様に状態②~④について考えれば式(2) ~ (4)が得られます。
ステップ2:前の状態と後の状態を決める
保存則の基本的な式の構造は以下の通りです
\((前の状態) = (後の状態)\)
例えば問1で状態②の速さ\(v\)を求める場合は、
既知の状態①を”前”として、状態②を”後”として解くべきだと判断します。
このように、”前” と “後” の状態を①~④のいずれとするかを設問ごとに考えます。
ステップ3:仕事を計算する
ステップ2で “前” と “後” を決めたら、その間の仕事を計算します。 詳しくは各設問の解答・解説を参照して下さい。
ステップ4:立式する
ここまでのステップを踏まえて
\((前の状態) + (仕事) = (後の状態)\)
という形で立式します。
あとは、この式を数学的に解けばokです。
注意点
今回は解説の為に上記のようなステップで解きますが、 こうした問題に慣れてきたらステップ2から始めてステップ4まで行い、 ステップ4で立式する最中に各状態の力学的エネルギーを具体的に 表わすという手順で解けるようになってください。
運動エネルギーの詳細はコチラ!(Map)重力による位置エネルギーの詳細はコチラ!(Map)
弾性力による位置エネルギーの詳細はコチラ!(Map)
力学的エネルギー保存の詳細はコチラ!(Map)
〔解答と解説〕
問1
答え:\(v = \sqrt{2gh}\)
[解き方]の条件代入後の式(1)~(4)を立式した上で必要なものを使って解きましょう。
今回は”前の状態”を①、”後の状態”を②として解きます。また、①→②にかけては
図3の枠内に示すように垂直抗力と重力が働きます。よって、これによる仕事を計算
すべきですが、垂直抗力は移動方向と常に直交するので仕事は\(0\)となり、
重力のする仕事は位置エネルギー\(U_g\)として計上しているので不要です。これらを踏まえると、
\(
\begin{align*}
\text{(前の状態)} + \text{(仕事)} &= \text{(後の状態)} \\
E_1 + 0 &= E_2\\
0 + mgh + 0 &=
\frac{1}{2}m v^2 + 0 + 0 \\
mgh &= \frac{1}{2}m v^2 \\
v^2 &= 2gh \\
\end{align*}
\)
\(v > 0\)より、
\(
\begin{align*}
v &= \sqrt{2gh} \\
\end{align*}
\)
問2
答え:\(v’ = \sqrt{2g(h – \mu’ L)}\)
[解き方]の条件代入後の式(1)~(4)を立式した上で必要なものを使って解きましょう。
今回は”前の状態”を①、”後の状態”を③として解きます。また①→③での仕事は
次の様に計算します。まず、①→②部分では問1で求めた通り仕事は\(0\)です。
また、②→③部分では図4の枠内に示すように動摩擦力と垂直抗力と重力が働きます。
垂直抗力は移動方向と常に直交するので仕事は\(0\)で、
重力のする仕事は位置エネルギー\(U_g\)として計上しているので不要です。
動摩擦力のする仕事は
\(
\begin{align*}
W &= Fxcos\theta \\
&= \mu’ mg L cos180^\circ \\
&= – \mu’ mg L \\
\end{align*}
\)
となります。これらを踏まえると、
\(
\begin{align*}
\text{(前の状態)} + \text{(仕事)} &= \text{(後の状態)} \\
E_1 + (0 – \mu’ mg L) &= E_3\\
0 + mgh + 0 – \mu’ mg L &=
\frac{1}{2}m v’^2 + 0 + 0 \\
mgh – \mu’ mg L &= \frac{1}{2}m v’^2 \\
v’^2 &= 2g(h – \mu’ L) \\
\end{align*}
\)
\(v’ > 0\)より、
\(
\begin{align*}
v’ &= \sqrt{2g(h – \mu’ L)} \\
\end{align*}
\)
問3
答え:\(x = \sqrt{\frac{2mg(h – \mu’ L)}{k}}\)
[解き方]の条件代入後の式(1)~(4)を立式した上で必要なものを使って解きましょう。
今回は”前の状態”を①、”後の状態”を④として解きます。また①→④での仕事は
次の様に計算します。まず、①→③部分では問2で求めた通り仕事\(0 – \mu’ mg L\)です。
③→④部分では図5の枠内に示すように弾性力と垂直抗力と重力が働きます。
弾性力や重力による仕事は位置エネルギー\(U_g, U_k\)として計上しているので不要です。
垂直抗力は移動方向と常に直交するので仕事は\(0\)となります。
これらを踏まえると、
\(
\begin{align*}
\text{(前の状態)} + \text{(仕事)} &= \text{(後の状態)} \\
E_1 + (0 – \mu’ mg L + 0) &= E_4\\
0 + mgh + 0 – \mu’ mg L &=
0 + 0 + \frac{1}{2}k x^2 \\
mgh – \mu’ mg L &= \frac{1}{2}k x^2 \\
x^2 &= \frac{2mg(h – \mu’ L)}{k} \\
\end{align*}
\)
\(x > 0\)より、
\(
\begin{align*}
x &= \sqrt{\frac{2mg(h – \mu’ L)}{k}} \\
\end{align*}
\)